繭の記憶

あるマゾにまつわる物語。

恐怖に惚れる

彼が与える苦痛はいまだにそこが見えない。普段は穏やかで楽しいのに、突然の一言で堕とされる。男性器恐怖症のはずなのに、彼のそのものだけは無性に欲しくなり、居ても立っても居られないほどになる。私を逝かせ続け、壊し、そして現世に戻し、また壊す。どうしても限界になり「許して」と言えば「まだ壊れてなかったんか」とさらに破壊する。逝き果て、脳まで破壊し、そのまま意識がなくなるまで快楽のみで責める。少しの意識が戻れば、頭を掴み奉仕しろと無言で言う。彼のものを口に含めば、そのまま喉の奥まで躊躇なく押し込められる。そこにある感情は恐怖ではない、至福。呼吸ができず嗚咽でなんとか息を吸おうとするがそれさえ許されない。何度も何度も溺れては少しの空気を含み、また溺れる。呼吸ができなくなり意識が飛べば、挿入で意識を戻される。レイプとなんら変わらないようなセックスであるのに、私は深く溺れ、感じ、幸福で涙する。おおよそ、セックスが嫌いな人、とは言えないな、と自分でも思う。

ああ、そういえば、彼は私にビンタもスパンキングもするが、決して痣をつけることはしない。私の体にどれほど痣があっても、「繭ちゃんの体に痣はつけないよ。」と言う。まるで私の体が美しいままの女性であるように扱う。でも、私が他者からつかられている痣を否定することもない。一体どんなバランス感覚で生きているんだろう、と思ったりする。

SMはわからない、と言うくせに、SMにどっぷりと浸かってきた私を足元で転がしている。どんな感情で暴れても手綱を引かれれば一瞬で戻る。面倒なわがままを言うことなど決して許されないし、一度でも言えば捨てられることは確実だけれども、その一方で私が甘えることに関して、可能な状況ではどれほどの量があっても無碍にはしない。

私が堕ちる前、これまでの主従がどうやって終わってきたかを一発で言い当てた。その観察眼が怖かった。怖いと思えたのは久しぶりだった。

そしてその恐怖は今なお増大している。主従ではないが、これまでで最も恐ろしい人であることは違いない。その恐ろしさに心底惚れている。