繭の記憶

あるマゾにまつわる物語。

discipline #40 美しいものを求めるとき

縄を受けた夜、帰り道は決まって同じ曲を聴いている。上原ひろみのHaze。雑音や騒音を聞きたくないから。拷問縄を受けてすべての欲や苦しみが浄化された体には、美しいものしか入れたくなくなる。縄の後にすっかり寝てしまって、少しばかり体力の回復があれば、わざと遠回りをして、住んでいる港町の夜景を楽しみながら帰ったりもする。その時間が、私にとっては何よりのご褒美で、幸福で、そして先ほどまでの苦痛を心で握りしめるようにして、閉じ込める。

あの絶望も絶叫も、すべては音律に溶けていき、そこから吐き出される快感と幸福だけが、私の体に戻っていく。信号が止まってふと腕を見たら、まだ真新しい赤い縄痕があり、確かに私はあの苦痛に悶える時間を過ごしていたのだと、夢ではなかったのだと再認識できる。

 

安易に主に「今日は徹底的にお願いします」なんて言ったものだから、気づけば竹が用意されていて、私は絶望に打ちひしがれることになった。股縄を仕込まれたその場所に竹が当たれば、少しだけ体重をかけるだけで、激痛となる。洗濯ばさみよりも、鞭よりも、痛いのではないかと最近思う。耐えられないとあまりにも絶叫してしまい、一度、竹は私の体から離れた。主に呆れられたのかと思ったが、少しの調整の後に竹は戻ってきて、そのまま固定をされてしまった。痛みはますます私の芯に迫ってくる。声にならない声を発し、そのうちに声を出すことさえできなくなる。許してと懇願すればするほどに、主は笑い、そして「俺はサディストじゃないよな?」とこの世で一番サディストな質問を私にする。NOなどと言えるわけもない。この不条理さを主は存分に楽しんでるのだから、本当に恐ろしい。

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ギリギリの限界を撮影され、そのまま下ろされた。どうしても耐えられず、解いていただいたが、「俺はもう一つしたいことがあった」と仰った。その「もう一つ」の内容はいずれ思い知らされることになるのだろうと思う。

プライベートの空間、ルールなどなにもない。絶望に打ちひしがれ、死を間近に感じ、私の中にある雑味が浄化されていく。浄化された体が求めるのは美しい景色であり、美しい音楽。それ以外は何も感じたくないと思う時間がそこにはある。