繭の記憶

あるマゾにまつわる物語。

マゾという蟲と共に生きる

マゾが蠢き出せば、どうにも止まらなくなる。仕事をしていても、日常を送っても、その醜い欲は消えない。むしろ増大するだけだ。苦痛を求める声が仕事中に襲って、会議室に篭る。突然に涙が出てくるのは、子どもの頃から何一つ変わっていない。

どれだけ精神を整えても、社会的にある程度の地位にいたとしても、こうなればただのマゾに堕ちてしまう自分の性癖が憎い。限界になり、救いを求めて連絡をする。

「今日、夜空いてきますか。」

「了解」

「ちょっと色々、きつい」

「気づいてます」

短すぎるメッセージから全てを汲み取ってくださるのがありがたい。余計なことを言いたくないのは自分のプライドか。

 

2人きりの空間、すぐに裸になった。「裸になったほうがいいですか?」と言ったのも強がり。本当は何も纏わない体を見て欲しかった。目を見るだけで涙が出てくる自分自身に、随分とこの人に心を許し始めているんだなと気づいた。

鞭を振られると蠢く欲は少しずつ体から吐き出されていく。この苦痛でしか自分の蟲を殺せない。

世間からは、異端な人だと思われているようだが、その方の鞭には愛がある、赦しがある。足にかかる縄は相変わらず骨まで壊すように責めるが、この縄にもまた赦しがあることを体は覚えている。出会ってから、苦痛がますます快楽に近くなっている。快楽の鞭は、どれほど強く打たれても痣がつかない。心と身体が完全にそれを受け入れてしまうから。マゾにとっては抱擁と何ら変わらない。

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そして、新たな責めに耐えられなかったことさえ、私の心を暖かくさせてしまう。まだこの人には遊んでもらえると。随分とわがままなマゾだとは思う。

蕾に手が入り、その穴が使えることが晒される。膣だって同じことだ。出会った頃、セックスは嫌いだと言っていたことに対しての叱りを受ける。あの頃はただ怖かった。何をされるのかわからないという先入観で、さまざま鎧を纏っていた。彼の本質を見破れていなかった。

(だってそうでしょ、マゾが使える膣と蕾を持っているなんて暴露れば、群がる余計な虫を追い払う労力が必要になるじゃない。という言い訳はもちろん通用しない。)

結局のところ、私の女性器はただ丁寧に快楽を覚えさせられるだけであって、あの方は決して一線を超えない。失礼な話だが、やっとそのことを信頼できるようになってきた。

気づけば、私の心と体からドス黒い欲は消えていた。「落ち着いたか?」の言葉に素直に首を縦に振る。そして、変態としての苦痛を曝け出し、誰にも言えない欲を打ち明けた。

その返答としての「お前はまだまだこれから苦しむぞ。」という言葉には愛しか感じれなかった。