繭の記憶

あるマゾにまつわる物語。

discipline #23 苦痛の連鎖

「おい、起きろ、解くぞ」

そんな声をかけていただいて、自分が縛っていただいたまま寝てしまっていたと思いだす微睡の時間。この時間の至福は何物にも代えがたい。ついさっきまで私を限界まで追い込んでいた縄は、今は私を包む主の優しさそのものに変化していた。縄を解かれると、そのままお風呂に入ってくるように指示される。そのお心遣いも本当に幸せだった。

 

仕事の日の縄は、二人の体力や時間の制限もあって、大抵1縛のみ。ただ、その1縛で限界まで追い込まれるので、休日のゆったりとした時間の縄とは違う鋭さがある。この日も、後手から始まった縄はかなり早い段階で私の股に鋭い痛みを与えてきた。この痛みがこれからさらに足を縛られ、吊られ、撮影され、降ろされ、解かれるまでの間、絶えず続くのかと想像するだけで否応にも恐怖感が高まる。

股縄に仕込まれた縄は、さらにそのあとその縄を縫うようにして別の縄が絡みついていった。もちろん陰部には耐えがたい痛みが足されていく。そして、その痛みから何とか逃れようとすると今度は腰の位置の縄がじりじりと私を責める。「お前はもうどこにも逃げられないんだぞ」と主が縄を通じて言っているように感じた。左足は右の太ももの上で固定され縛られる。ヒトにとって不自然な体勢で固定されれば固定されるほど、拷問のレベルは上がる、と主が仰っていたが、まさにその体勢になっている。そして、このまま吊り上げられた。

f:id:mayu_submissive:20211010031756j:image

吊り上げられると一部の痛みがなくなっていく。例えば足の付け根の縄は上げられることによって少し緩み、私への責めを潜めた。ただ、一部の痛みがなくなると、そのほかの苦痛を強烈に感じるようになる。股縄や不自然な足の体勢、下半身の重さを伝えてくる上半身の縄、洗濯ばさみ、、、拷問の始まりだった。

痛みに絶叫し、痛みから逃れようと体を力ませる。許して、と懇願する叫びにも近い声。あとで冷静に考えれば、こんな声は主にとっては余興みたいなものだ。そしてこんな懇願が受け入れられるはずもない。私が絶望に浸ると、主は声をあげて笑う。そして、冷静にストロボのスイッチを入れ、カメラで撮影し、そして丁寧にストロボのスイッチを切る。その冷酷さがいつも恐ろしく、そして、主に惹かれている理由でもある。

次第に絶叫したり力む体力がなくなっていく。脱力すれば股縄は食い込むが、その痛みも麻痺するような感覚。鞭の時の桃源郷と同じような領域になっているのだと思う。意識が遠のいていく、落ちる、という感覚とともに、大抵落ちているような気がする。体の脱力があとから見返した写真の口元でよく分かる。

f:id:mayu_submissive:20211010032151j:image

ただ、この領域に長くいることを主は許さない。股縄を引かれ、現実の世界へと戻される。桃源郷から戻ってきたときの地獄はさっきまでよりもずっと辛く厳しい。再び許してと懇願する、意識が飛ぶ。そして戻される。飛ぶ、戻される、飛ぶ、戻される…時間がどれほど立ったのかもまったくわからない。ただ苦痛だけに浸る空間。

主が吊り縄を解き始めた。でも、膝が地面についた段階でその縄は再度固定された。体が浮いていた時には感じなかった苦しみが戻ってくる。

f:id:mayu_submissive:20211010032229j:image

この拷問がいつまで続くのか、と考え始める。自分の被虐性を超えて調教されているような感覚になる。でも、主が言った言葉で心が落ち着いた。「お前には徹底的に地獄を見せないと、またすぐにここまで落とされたくなるだろ。」

そうだ、その通りだ。どれほど泣き叫んでも、限界を超える調教をされていると思っても、そのあとに思い出すとそれは私にとって最高の時間。またここに戻ってきたいと思ってしまっている。そんなことを拷問の間に考えると少し心が温かくなった。

 

吊り縄が完全に解かれて、私はそのまま地面に倒れた。そうすると足の不自然な体勢がこれまでとは違った痛みを与えてきた。調教の極地で新しい痛みが来るという想像をしていなかった事態に、また顔がゆがみ叫び声をあげる。体勢を変えて逃げようとすると、そのままいろ、と言われ、写真を撮られた。

f:id:mayu_submissive:20211010032319j:image

縄が少しずつ解かれていく。足の無理な体勢がなくなり、苦痛の数が減っていく。でも、数が減ると苦痛は最後の1つに集約される。縛り始められたころから続く股縄に。幾重にも絡んでいるその股縄は解かれるときでさえ、拷問だった。股からすべての縄がなくなるまで、私は叫び続けるしかなかった。

 

そして、股縄の最後の1本がなくなる。その瞬間、主も縄も、私を責めることをやめた。主は私の上半身の縄が残った状態で掛布団をかけ、私の頭を上げて枕を置いてくださった。そのまま私は眠ってしまったようだった。